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richer・prettier・healthier??

先日、オランダで行われた下院選挙の結果に少しほっと胸をなで下ろしたこの頃です。今後行われるフランス大統領選挙、ドイツの連邦議会選挙の行方が非常~に気になります。世界的な経済の不透明感や情勢の不安定化が訪れると、極右的・排外的な流れが支持を得やすくなるのは歴史の中で繰り返されてきていることかもしれませんが、20世紀に相次いだ大戦、特に第一次世界大戦で壊滅的な被害を受けた人々の苦しみ、争いの悲劇を繰り返さないために人権の尊重・差別の撤廃・結束を理想に掲げたEUの存在意義の大きさを、ヨーロッパの人々をはじめ、私たちは忘れてはならないでしょう。もちろんEU設立は経済活動の自由化・円滑化など経済的な側面においての意義も大きかったので、現在の状況はEU内での利害の対立や移民の問題など非常に難しい問題が山積していることは事実なのですが、EUが実現しようとしてきたこと、平和を実現しようとしてきた姿勢が私たちにとってなによりも増して本質的に重要あるかということを再確認しています。非現実的な理想主義だと言われても、理想や希望が抱けないのであれば、私は生きている意味を感じることができません。

そのようなことを考えているところ、時事通信でこのような記事を目にしました。神戸連続児童殺傷事件でご家族を亡くされたご遺族の方が公表された手記です。

彩花が10歳でこの世を去って20年。彩花が生きた時間の倍の歳月が流れました。どれほどの時間が流れようとも姿は見えなくとも彩花の存在が薄れることはなく、私たちの中にしっかりと根を下ろしています。

 当時は、悲しみと絶望感に押しつぶされそうな毎日で、明日のことさえ考えられませんでした。そんな私たちに寄り添い、励まし支えてくださったたくさんの真心のおかげで今日まで日々を重ねることができました。毎年、3月23日は感謝の思いを確認する日でもあります。

神戸の事件以降、少年法が改正され犯罪被害者等支援条例が制定される自治体も増えてきました。また教育現場や地域でも子どもを守り育てるという意識が大きく変わったように思います。しかしながら、残虐で短絡的な殺人やいじめによる自殺、虐待など子どもを取り巻く事件は後を絶ちません。悲劇が繰り返されるたびに心が痛くなるのは私だけではないでしょう。

このような日本社会になってしまった理由には、自分さえよければいいという利己主義とお金やモノを多く所有することが幸せと感じる物質至上主義があるように思います。そういった刹那(せつな)的な幸福感はゆがんだ嫉妬心や孤独感を生み出します。事件の火種は全てこの思想にあると言っても過言ではありません。では何が必要なのでしょうか。それは、物質とは対極にある目に見えないものに価値があると認識することと利他の精神だと強く感じています。

それを子どもたちに教えるには、大人が自ら人のために心を尽くし、人の役に立てる喜びを言葉だけではなく姿を通して伝えるしかありません。どんな状況にあっても誰も皆その人にしかできないお役目が必ずあるのです。そして、自分が生かされている現実や、周りの人に「ありがとう。おかげさまで」と感謝する心を忘れないことです。遠回りのようですが、こういった小さな積み重ねが命を大切にする思いにつながっていくのではないでしょうか。

私たち家族が20年をかけて学んだのは、「試練の中でこそ魂が磨かれ、人の幸せを願う深みのある優しさと、倒れても立ち上がろうとする真の強さが育まれる」ということです。家族の絆もさらに強くなりました。それらは決してお金で買うことができない宝物であり、彩花が命をかけて教えてくれたことに他なりません。これからも、体験し学んだことを丁寧に社会にお返ししていくことが、私たちの役目だと確信しています。<時事通信より抜粋>

私はこの事件が起きた時、神戸市の中学校に通っていたのですが、やはり非常に大きな衝撃を受けた事件で今でも忘れることはありません。ご遺族の方が、最愛の家族を失った苦しみの中で、今日までの長い時間考えに考えて辿り着かれた強く確かな言葉だと思います。世の中の表面で取り沙汰される関心事、richer・prettier・healthier (より裕福に・より美しく・より健康に) こうした「我」に纏わりつく欲望は、当然私も持ち合わせ、前進するエネルギーを与えてくれる必要不可欠なものですが、では仮に豊かで健康で美しい身体「我」を得られたとして、何をするのかというその先のこと、あるいはこれら3つの言葉では掬いきれないこと、あるいはその周辺に浮かんでいるかもしれない繊細で豊かな感情について、私はこれから親となる一人の人間として、考えていかなければならないと強く思わされたのでした。

※記事中のricher・prettier・healthierは、友人で作家の堀田順子さんの言葉を引用させていただきました。

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