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​作品「間(あわい)について -YMMASHITA Chiyoko-」

脱色された布の美しさに注目するようになったのは今から6年ほど前のことだった。偶然、漂白剤がついてしまった衣類の染みに気が付いたことがきっかけだった。この体験と私のなかの衣類の模様や、これまで制作してきた彫刻作品とは対照的な布の持つ時間性への関心が結びつき、2018年から古着を脱色した作品を作り始めた。

 

本作「間(あわい)について-YAMASHITA Chiyoko-」は、私の暮らす金沢にある一軒の町家の改修・再生プロジェクトのなかで、前居住者である山下千代子氏の遺品の整理に関わらせてもらい、和洋裁が得意であった山下さんの手作りや既成の衣類、浴衣や着物、古い洋裁生地を譲り受けたことから制作が始まった。

 

布地の模様が徐々にその鮮やかさを失っていく様子は、いつか消えていくであろう私たちの存在の記憶や生命(いのち)の時間を容易に想像させる。脱色された布地は、鮮やかさを失ってもなお美しく、存在するものが時間をかけて消えていく時間を凝縮しているかのように感じる。

 

かたちを持たない布が宿す「生命の時間」を表出させるために、どのような形態が可能か。本作はかつてひとりの市井の女性が身に着けた、あるいは身近においていただろう古着や古生地を脱色し、細い帯状に切断し、再び編みあげるという作品である。

 

やがて消えていく美しい布に新たな生命(いのち)を吹き込みたい。

​                                        2020年

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