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個展「名前のない庭 Untitled gardens」によせて
身体に最も近いところにあり、皴襞の歪みや変形に持ち主の心身の痕跡を宿す衣服、その衣服を手作業で、つまり私の身体を通じて粘土に刻む。この過程には、持ち主であった人々の存在の記憶(痕跡)とともに、私自身の身体性や時間をも同時に織り込んでいくような感覚が伴う。
私が扱う素材としての焼き物のざらざらとした土肌や、ひび割れといった生々しい表情には、身体感覚や人間の存在にまつわる実存的な感覚を呼び覚ますような手ごたえがある。焼き物は、高温で焼かれることで粘土の組成に化学変化が起こり、焼かれた後は粉々に割れて砂粒になるまで、与えられた形を頑ななまでに留め続けることになる。
日常において、移ろい色あせて容易に朽ちていく衣服の像(イメージ)は、布から陶へと移し替えられることにより、衣服本来とは異なる時間性を得ることになる。焼き物の<土>がもつ根源的なイメージ、物質的な存在感の強さと脆さ、人間の存在と密接に関わる衣服の像、彫る行為の身体性と時間、これらのイメージと意味を幾重にも重ねながら、人間の生命の時間を濃密に宿すような、一つの記憶の形態を作り出したい。
かつて人間は植物の葉や茎、花を用い、植物や動物の繊維を拠ってできた糸を染め、織られた布から衣服を作った。女性たちは招福や繁栄など様々な祈りを込めて、また身近な日常の記録として刺繍やレースを施した。はるかに時代は下り、衣服が機械化・量産化された現代においてもなお、植物の姿が刺繍やレースに施され人々は花々を身に纏う。衣服の上には、かつての主たちの私的な<庭>のような内的な時間と空間が現れる。
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